ぶっくま

あさのが読んだ本の備忘録

我が手の太陽

この物語の主人公は職人。勤める会社のエースを自他ともに認められる溶接の熟練工だ。プラントなどの現場に出向き、普段、人が目にすることがないような巨大な鋼管を繋ぎ合わせる。 手元で弾ける灼熱の光、高熱下で溶けオレンジ色に光る鋼の池。溶接による接…

みつばの泉ちゃん

泉ちゃんは小学3年生。近所のお姉さんと並んでアイスを食べながら、お姉さんに小学生の頃に好きな子がいたかと聞く。泉ちゃんには二人いて、二人から嫌われていると言う。泉ちゃんは物おじしない、ちょっとおしゃまな女の子。泉ちゃんは人を和ませる。 泉ち…

成瀬は天下を取りにいく

いかついタイトル。迷いのない目をした表紙の少女。その印象だけでこの本を手に取る人も多いだろうと思う。自分もその一人だ。主人公成瀬は滋賀に住む女子中学生。同級生の友達の視点でその生き様が描かれる。生き様とは穏やかではないが、この本を読み進め…

ラブカは静かに弓を持つ

主人公の青年は子供の頃にチェロを習っていた。社会人となり再び音楽教室に通いチェロを手にする。この物語の軸となっているのは現実の社会でも耳目を集めた音楽著作について。音楽教室での楽曲演奏に著作使用料を課すという問題。グレーゾーンが長い間放置…

街とその不確かな壁

村上春樹の小説世界は森だ。6年ぶりの長編小説『街とその不確かな壁』のハードカバーを開け、最初の一行を読んだ瞬間に森の中に迷い込んだ感覚を覚えた。薄暗く霧がかかったような文章の森の中をおそるおそる進んでいく。輪郭のおぼろな登場人物。謎めいた…

オオルリ流星群

『オオルリ流星群』/伊予原新 高校の同級生たちの想い出 高校最後の夏を費やした大創作 中年になった彼らは天文台を建設する それぞれが抱える悩み もう会えない同級生 あの暑い夏の日を思い出しながら みながそれぞれの思いを重ね心を震わせる Amazonで読…

砂嵐に星屑

『砂嵐に星屑』/一穂ミチ テレビ局で働く人たち 仕事、人間関係、恋、家族 みなが何かを抱えて生きている 見通させない物語を注意深く辿り 共感が埋め込まれた地雷原を歩く 人の柔らかいところにそっと息を吹きかけられ そうだよねと頷くしかないのです Ama…

コーリング・ユー

『コーリング・ユー』/永原皓 捕獲され生き別れた二匹のシャチ 高度な知能を持った雄のシャチは ある任務遂行のために訓練を受ける 信頼できる人間との出会い 生き別れた雌シャチの存在 人間とシャチの信頼が物語を揺り動かす Amazonで読む楽天で読む 書籍…

ブラックボックス

『ブラックボックス』/砂川文次 何事も長続きしないキレ癖のある男 男は同じ場所をぐるぐると回り続ける 理解はしてもその回廊から抜け出せない そもそも社会に彼のための抜け道はない 己の無力に絡め取られる男の姿 きっと男はどこにも行けない でもそのま…

怪物

『怪物』/東山彰良 台湾人の叔父は生きるため悪の手先となった 男は曖昧な叔父の記憶を元に小説を書いた 完成したはずの小説 そこに浮かび上がる新たな事実 男は人の闇に苦悩し、新たな道を模索する 人間とは何か、その真実を光が照らす Amazonで読む楽天で…

その午後、巨匠たちは、

『その午後、巨匠たちは、』/藤原無雨 世界に知られた画家たち 彼らは神としてある町に呼び寄せられた 神に使える不老の女 画家が描いた絵を収蔵する美術館 画家たちの心情に翻弄される町 不思議な世界はいつしか変化の時を迎える 注釈を彷徨う物語はどこに…

チェレンコフの眠り

『チェレンコフの眠り』/一條次郎 マフィアのボスに飼われていたアザラシ ボスが殺され路頭に迷う 人間に環境が破壊された世界 絶望に暮れ当てもなく彷徨うアザラシ 幻想にまみれた人間社会の成れの果て そんな世界が辛辣に描かれる Amazonで読む楽天で読む…

奔流の海

『奔流の海』/伊岡瞬 父に車にぶつかることを強要された少年 後に父と母は死に、裕福な家の養子となる 少年の出自にまつわる過去 養父へのわだかまり 明らかにされてゆく真実の中で 成長した少年は自らの人生を見つめる Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 po…

教育

『教育』/遠野遥 健康や性行為を推奨する奇異な学校 透視能力の成績で序列が決まる 機械的な授業 教師、職員による監視と体罰 生徒は進級を目指し戒律に順応しようとする はみ出さない子供の量産を良しとする 学校システムの歪(イビツ)が浮かび上がる Ama…

オン・ザ・プラネット

『オン・ザ・プラネット』/島口大樹 映画撮影のため鳥取砂丘を目指す男女四人 道中でこの世界について意見が交わされる テーマの芒洋さ 個々から湧き出す記憶の断片 カードを捲り表を見てまた裏返す そんな発散した議論が繰り返される 同じカードを持ってい…

神さまを待っている

『神さまを待っている』/畑野智美 派遣を切られ生活が困窮する女性 日雇いで食い繋ぐもホームレスとなる 漫画喫茶に寝泊まりする日々 性を売る周りの女たちの存在 自身の尊厳をめぐる攻防が描かれる Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 powered by openBD API…

ミシンと金魚

『ミシンと金魚』/永井みみ 介護を受ける一人暮らしの老女 記憶が曖昧で介助なしでは生活がままならない 継母に虐待され、兄は借金を残し死んだ 息子は自死し、娘も病気で夭折した そんな複雑な環境の中でも老女は生きた コミカルな文体で壮絶が明るく語ら…

我が友、スミス

『我が友、スミス』/石田夏穂 ジムに通う会社員の女性 レジェンドに誘われボディビルの世界に入信する 美を追求し極限まで鍛えられる筋肉 禁欲によって研ぎ澄まされる精神 何かに打ち込むこと、それがなんであっても 人は何かを得て人を大きくする 筋肉越し…

対岸の彼女

『対岸の彼女』/角田光代 人付き合いが苦手な主婦 人を信用できない女社長 永遠に続く息苦しさの中でもがく二人 出会いと別れ 繰り返される人生の邂逅は 社会の渦と人の澱によって演出される 絶望の中で光る小さな救いに心が揺れる Amazonで読む楽天で読む …

ボタニカ

『ボタニカ』/朝井まかて 植物研究家、牧野富太郎の評伝小説 少年は郷里の草花と親しげに話をする 成長し興味が高じた男は家の財を食い尽くし 植物研究に没頭する 困窮の家は妻まかせ、学位に見向きもせず 一研究家として草花を採取する日々 己の道を貫く頑…

六つの村を越えて髭をなびかせる者

『六つの村を越えて髭をなびかせる者』/西條奈加 学問に長じ幕府の蝦夷調査に派遣された男 北の大地の大自然、アイヌの人々に魅了される 蝦夷の松前藩の専横 定まらない幕府の蝦夷地政策 調査結果を反故にされ男たちは懊悩する 蝦夷の地で生死を共にした男…

つるかめ助産院

『つるかめ助産院』/小川糸 失踪した夫を探しに渡った南の島 夫は見つからず妊娠を知る 島の助産院の人たちの温かさに触れ 島での出産を決意する 人の表面に出る優しさ、その裏にある悲しみ 南の島の大きな自然に抱かれた人間の叫びが 心の奥底に囁きかける…

恋愛中毒

『恋愛中毒』/山本文緒 夫に捨てられた女は色恋から距離をおくも タレントの男に拾われ呆気なく恋に落ちる 女にだらしないタレントの男 男の周りにいる女たちに嫉妬する女 恋敵の存在を燃料に独占欲を燃やす女の 痛々しい姿が赤裸々に描かれる Amazonで読む…

schoolgirl

『schoolgirl』/九段理江 分断の時代を生きる多感なミドルティーン ハイテクを武装し自分を作り込み発信する 誰かが発明したツールによって増幅された 何かに心酔する蒼い姿が描かれる 研ぎ澄まされたナイフで今の時代を 切り取った文脈が迫りくる Amazonで…

ミトンとふびん

『ミトンとふびん』/吉本ばなな ごく普通の彼女を描いた短編集 彼女には家族がいて友達がいて旅をする 彼女は笑い泣きもするが 温かい陽射しの中で生きている 彼女は普通なのに何かキラキラした ものを内に秘めている サバサバした彼女を見ていると 心がほ…

ひとりでカラカサさしてゆく

『ひとりでカラカサさしてゆく』/江國香織 一緒に自死した三人の高齢者 良き仲間であった三人は何故死を選んだのか 残された人々は何を思うのか 一つの事件が境遇の違う人々の心に もたらす様々な心模様 先の見えた人生に人は何を思うのか そんな未来のこと…

塞王の楯

『塞王の楯』/今村翔吾 戦国の世に家族を亡くし故郷を追われた少年 石積みの師に拾われ職人となる 城の守りの要となる石垣積み 技術を極め、戦の中でその本質を知る 戦とは何か、人とは何か 全てが果てて人はようやくそれに気が付く 【第166回直木賞受賞作…

永遠の出口

『永遠の出口』/森絵都 どこにでもいるような小学生の少女 彼女は成長の過程で誰もが経験する悩みに向き合う 大人という存在の幻想 ふわふわした未完成の同級生たち まるで魔法の森にでも迷い込んだかのような時を経て 気づけばみな、いつしか出口を目指し…

皆のあらばしり

『皆のあらばしり』/乗代雄介 歴史に詳しい男と出会った歴史研究部の少年 興味が一致した二人は地域に眠る未出の書を探す 怪しげな大阪弁の男 大人にも怯まないシニカルな少年 危うい雰囲気の中で進行する調査の中で お互いを探り合う二人の掛け合いが面白…

ミス・サンシャイン

『ミス・サンシャイン』/吉田修一 引退した大女優の荷物整理を手伝う青年 女優の経歴、作品を知るたびに心惹かれてゆく 女優が纏う人を惹きつける力 華やかな経歴の裏にある悲しみ 純粋な青年の目を通して見る 女優という人間の生が繊細に描かれていた Amaz…