ぶっくま

あさのが読んだ本の備忘録

人間ドラマ

高瀬庄左衛門御留書

『高瀬庄左衛門御留書』/砂原浩太朗 藩の農地を管理する下士の男 息子の死を境に物語が動き出す 独特の言葉使いと折り目正しい文体 それが主人公の男の生真面目な性格と正に一致する どんな波乱が起きてもきっと大丈夫 そんな心持ちのまま終項を迎えました …

水たまりで息をする

『水たまりで息をする』/高瀬隼子 風呂に入らなくなった夫 そんな夫を受け入れようとする妻 社会の歪がもたらした奇異な状況に 焦らず騒がず淡々と対処する女 可笑しみと人間の闇が入り混じる世界の中で 女という生き物の揺るぎない強さを見ました Amazonで…

インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー

『インタヴュー・ウィズ・ザ・プリズナー』/皆川博子 アメリカ独立の戦乱に巻き込まれた人々 戦争という狂気が人々を狂わせ翻弄する 極限の中で結びつく人の心 物語は悲惨な戦争の中で小さく光りを放つ 心を通わせた者たちの姿を浮かび上がらせる 人間の光…

朔が満ちる

『朔が満ちる』/窪美澄 親に酷い仕打ちを受けた子供たち 成長してなお、彼らは悲しい過去に絡まりもがく 世界の全てを疑い、手探りで生きる場所を探す 信頼できるのは同じ境遇の仲間だけだった 彼らにとって救いとは何か? それは安易な施しではないと願う …

オーバーヒート

『オーバーヒート』/千葉雅也 哲学を専門とする大学教授でゲイの男 多様性というワードに踊る社会の中で その流れにどこか背を向けたくなる いくら社会が建前で認めようとも 拭いきれないその世界の影と澱 儚さと繊細さが痛々しく描かれる Amazonで読む楽天…

Phantom

『Phantom』/羽田圭介 配当狙いの手堅い株式投資をする彼女 怪しい自己啓発集団に心酔する彼 深みにハマる彼の救出を試みる ありもしない物に縋る人間の愚かに 淡々とした冷徹な視点が斬りかかる 正義という名の危うさを思いました Amazonで読む楽天で読む …

貝に続く場所にて

『貝に続く場所にて』/石沢麻依 歴史の匂いを纏うドイツの街 そこで震災被災者の幽霊を迎える女性 記憶、風景、人の心情 時空を超えた情景が重なり合う世界 心に刻み込まれた傷跡は 決して消えることはないのだと理解した 【第165回 芥川賞受賞作】 Amazon…

スモールワールズ

『スモールワールズ』/一穂ミチ 近くのどこかに落ちている誰かの物語 きっとありふれている小さな物語 でもその世界はどこまでも深く果てしない 小さな鐘の余韻がずっと心の中で鳴り響く 暗闇の中でうずくまり、鐘の音が消えてゆくのを いつまでも見ていた…

氷柱の声

『氷柱の声』/くどうれいん 東北の震災で被災した女の子 被害が小さかった故に抱える葛藤 大きな被害にあった人への申し訳なさ 一律に向けられる同情と健気を期待される違和 読みながら被災にもそれぞれの個性があり どこにも正解などないのだと思いました …

おれたちの歌をうたえ

『おれたちの歌をうたえ』/呉勝浩 小学生の同級生たちが遭遇した殺人事件 その亡霊が生涯に渡って付き纏う 意図や偶然、運命が複雑に絡み合い 同級生たちの人生を翻弄する 大人になっても消えない記憶の残像 過去というもどかしさを抱えながら読み終えまし…

神の悪手

『神の悪手』/芹沢央 将棋に関わる人々の心模様を描いた短編集 駒と盤面、ルールによって創造される勝負の世界 底無しの深淵な戦いの物語に人々の心は翻弄される そんな世界に人は人生を見てしまう 独特の視点で繰り広げられるストーリー まるで人間模様の…

カード師

『カード師』/中村文則 奇妙な依頼に巻き込まれるカード占い師 命懸けのその依頼は真眼を持つ本物の占い師を求めていた 占いの発祥や人間の殺戮の歴史 そこに無いものをあると信じ込み 愚行を繰り返す人間の本性が暴き出される 何度も一時停止を余儀なくさ…

雨夜の星たち

『雨夜の星たち』/寺地はるな 空気が読めないが、それを気にも留めない女の子 周りの人や家族もそんな彼女が理解できず目を細める 社会の根底にある理不尽を指摘し 世間の常識から隔絶するように装いながらも 隠しきれない心の揺れが思わず漏れ出してしまう…

彼岸花が咲く島

『彼岸花が咲く島』/李琴峰 記憶を無くし南の島にたどり着いた少女 島の女の子に助けられ生活に馴染んでゆく 島、そして周りの世界の秘密 少女たちは心を揺らしながら前を向き 目の前の現実の中を生きてゆく そこに派手なドラマは無く、ただ生きる力があっ…

ぼくのメジャースプーン

『ぼくのメジャースプーン』/辻村深月 凄惨な事件に巻き込まれ心を病んだ同級生 不思議な力で彼女を助けようとする男の子 言葉でさまざまな理屈を考えながらも 心は大好きな人を助けようと勝手に動いてしまう そんな純粋な心から放たれる光が物語を照らす …

白医

『白医』/下村敦史 終末期緩和ケアを行うホスピスで働く医師 患者やその家族が上げる悲痛な叫びに翻弄される 法律で定められた医療行為 患者毎に要求と最適解が異なる現実 その現場にいる全員が両者のはざまで苦悩する 死とは誰のものか 気がつくと答えのな…

片見里荒川コネクション

『片見里荒川コネクション』/小野寺史宣 寝坊が原因で留年した青年と生涯独身の爺さん 同郷という縁が二人を繋ぐ 同じ景色を知っていたり、同じ人を知っている 故郷から離れた場所ではそんなことが 人と人の距離を縮める引力となる 緩やかで温かい人の繋が…

声の在りか

『声の在りか』/寺地はるな 子育て真っ最中の主婦 日々の家事をこなし、パートを勤め 子供のママたちと渡り合い、PTAの役員をこなす そんな目の回る主婦の日常に降りかかる理不尽 前向きに生きようとする姿が描かれるが リアルな現実を思い胸が苦しくなりま…

生きるぼくら

『生きるぼくら』/原田マハ 母に突き放された引きこもりの男 余命を語る祖母のいる田舎に行く 人、食、仕事、大自然 田舎での出会いが男を変えてゆく 人はほんの些細なきっかけや優しさで 生きる力を得ることができる そんなメッセージをしっかり受け取りま…

名も無き世界のエンドロール

『名も無き世界のエンドロール』/行成薫 仲の良かった親友をひき逃げされた同級生の復讐の物語 生みの親がいない三人のクラスメイト 何かが欠けた境遇が三人を強く結びつける 人生をかけて欠けたものを取り戻そうとする そんな青く痛々しいカッコ良さが 破…

まだ人を殺していません

『まだ人を殺していません』/小林由香 出産で死亡した姉の息子を引き取った妹 その子の父親は殺人容疑者だった 口をきかず感情が見えない男の子 父親が悪魔の子と呼ぶその子は何者なのか? 明かされてゆく殺人事件の真相と子供の心情 不穏な行き先を確かめ…

クララとお日さま

『クララとお日さま』/カズオ・イシグロ 病弱な少女と人工知能を持ったアンドロイドの物語 店で身請けを待つ知的なアンドロイド ある日、病弱な少女と運命的な出会いをする 少女の家に引き取られたアンドロイドは 少女を愛し献身的に全てを捧げる 純粋無垢…

あつあつを召し上がれ

『あつあつを召し上がれ』/小川糸 そこから先の景色が変わるような人生の転機 そんな大切な時間に寄り添う食べ物たちが描かれる 食べることは生きること 食事というものがもたらす 心の豊かさや大切な記憶たちに 改めて感謝したい気持ちになりました Amazon…

少女葬

『少女葬』/櫛木理宇 家出少女たちが向き合う社会の闇と運命の物語 弱者を吸い寄せる社会の闇 自由を求めた家出少女たちが向き合う厳しい現実 音もなくそっと忍び寄る分岐点 彼女たちはそれぞれの運命に向かって突き進む 信じたくはない、人間のおぞましい…

陽だまりの彼女

『陽だまりの彼女』/越谷オサム 気まぐれで風変わりだった中学の同級生 取引先にいた彼女と偶然に再会し交際が始まる 甘々な蜜月が続く中に置かれる 隠された秘密がありますよという伏線 最後の最後に明かされた秘密にですよねと納得しました Amazonで読む…

センセイの鞄

『センセイの鞄』/川上弘美 高校時代の先生と飲み屋で再会した女 記憶に薄かったはずの先生に好意を寄せてゆく かつての先生と生徒という関係の間にある隔壁 大人となった女は歳の差をも余裕で受容する 静かなる文体の中に見え隠れする熱い心情 女性という…

9月9日9時9分

『9月9日9時9分』/一木けい 夫に暴力を振われ、離別し心を病む姉 その夫の弟に恋をした妹の葛藤が描かれる どうしてこんなことになったのか、誰が悪いのか 物語は答えのない回廊をひたすら彷徨い続ける 諦めずに信じた先に見えた微かな光 その光が真実…

ことり

『ことり』/小川洋子 小鳥と通じる言葉を持った兄と その言葉を唯一理解する弟 小鳥を愛する兄弟の慈愛に満ちた日常が描かれる 雑音のない透明な空気の中で紡がれる言葉が 心を覆い尽くしじわじわと浸透してゆく やがて満たされた心から温かいものが溢れ出…

大人は泣かないと思っていた

『大人は泣かないと思っていた』/寺地はるな 片田舎に住む人々の家族と人生が描かれた連作短編集 家族が抱える問題、世代間ギャップ、田舎特有の世間の狭さ 誰もが不可避な生きづらさを抱えながらも 側にいる誰かに支えられ救われる姿に心が洗われる リアル…

累々

『累々』/松井玲奈 複数の男と同時進行で付き合う女の子 行動の心理が明示されることはなく 過去の片思いだけが象徴として横たわる 掴みどころがなく揺れ動く心情 少女と大人の狭間の不安定な女性像が 行間からこんこんと湧いてくる Amazonで読む楽天で読む…