ぶっくま

あさのが読んだ本の備忘録

人間ドラマ

ほんのこども

『ほんのこども』/町屋良平 父親が母親を殺した同級生 彼が残した文章を元に小説を書く自分 小説とその構想記が併記され 自分と彼の境界が溶け合い混濁する 分断独歩する文章が意識の迷走を呼び 埋め込まれた鋭利な言葉にハッとする 読了には相当な胆力を要…

黙約のメス

『黙約のメス』/本城雅人 信念に従い臓器移植を精力的にこなす医師 ビジネス的成功を目指す病院経営 私怨で医師を恨む官吏とジャーナリスト 皆がそれぞれの立場で己の主張を声高に叫ぶ 誰のための何のための医療なのか そんな疑問が投げかけられる Amazonで…

失われた岬

『失われた岬』/篠田節子 世を捨て忽然と姿を消す人々 彼らが向かうのは北国の隔絶した岬 なぜそこに行くのか、そこに何があるのか 大自然に秘匿された岬の秘密 真実を解く旅は過去へ遡る 分かるけど分かりづらい読後感でした Amazonで読む楽天で読む 書籍…

ミカエルの鼓動

『ミカエルの鼓動』/柚木裕子 手術支援ロボットを操り名を成す医師 自他ともに認める病院の盟主 ドイツ帰りの医師の登場で風向きが変わる 病院内を支配する権力の匂い 金を巡る不正と隠蔽 一人の医師の心の葛藤が描かれる Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 …

砂に埋もれる犬

『砂に埋もれる犬』/桐野夏生 育児放棄され飢えに苦しむ兄弟 兄弟は身勝手な母親を見限り関係は崩壊する 過酷な生存サバイバル 心に埋め込まれた不信と嫌悪 みなが自分の気持ちを押し付け合い 噛み合わない心理描写が描かれる それが現実ならとても悲しい A…

とわの庭

『とわの庭』/小川糸 母と二人暮らしの盲目の少女 少女にとって母親が生きるの全てだった 永遠という幻想の喪失 襲いかかる絶望と死の足音 限りなく透明で純粋無垢な心を差し出され 跪き祈るしかできない自分がそこにいた Amazonで読む 書籍紹介 powered by…

月魚

『月魚』/三浦しをん 老舗の古書店で出会う二人の若者 ある出来事が二人の間の空気を変える わだかまりながらもお互いを手放さない二人 じわりと染み出す心の揺れを身に纏い 静かな月夜を手探りで歩いてゆく その道のりは永遠に思えた Amazonで読む楽天で読…

平成くん、さようなら

『平成くん、さようなら』/古市憲寿 マルチタレントとして活躍する彼を持つ女 唐突に安楽死すると彼に言われ困惑する 上の階層に住む住民の匂い 都心を包む虚無の存在感 喪失がもつ恐怖の香り 空虚な世界に切なさがこだまし続けていた Amazonで読む楽天で読…

7.5グラムの奇跡

『7.5グラムの奇跡』/砥上裕將 眼科医院で働く不器用な新人視能訓練士 患者とふれ合う中で学び成長してゆく 原因が目で見えない視界障害 優しく患者を見守る心の目がヒントを与える フカフカの羽毛のような優しさに包まれ 夢見ごごちのまま終項を迎えた Ama…

明日、世界がこのままだったら

『明日、世界がこのままだったら』/行成薫 二人の男女が紛れ込んだ不思議な世界 初対面の二人の真実が少しずつ明かされてゆく 知っているようで知らない自分 知らないようで知っている他人 自分には出せない勇気が 他人には出せてしまう そんな優しさに包ま…

月曜日の抹茶カフェ

『月曜日の抹茶カフェ』/青山美智子 日常の中で不意に遭遇する心を揺らす出来事 そんな瞬間を綴った短編集 純粋で透き通った目でしか見えない世界 悪意とは無縁の優しくて温かい こんな出来事に遭ったら少し恥ずかしいかも そんな優しさの中できっと途方に…

すみれ荘ファミリア

『すみれ荘ファミリア』/凪良ゆう 古びた下宿の管理人と住人たち それぞれに問題を抱えながら生きてゆく 誰もが内に持つ複雑な感情 得体の知れないものが人を動かす瞬間 違和なく流れるように描かれる人間の表裏に 善と悪の双方を有無を言わせず肯首させら…

輝山

『輝山』/澤田瞳子 銀鉱の地に生きる民と官憲 それぞれがそれぞれの務めを果たしながら 地場の産業を守ってゆく 地掘りという過酷な労働 短命が故にその短い命を光り輝かせる 生き様が心の熱源を揺らし続ける Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 著者紹介 pow…

アルテミスの涙

『アルテミスの涙』/下村敦史 事故で寝たきりの女性が入院中に妊娠する ありえない妊娠に衝撃と憶測が駆け巡る 事件を取り巻く幾つもの何故 意識はあるが意思疎通が出来ない女性 その陰にひっそりと横たわる人間の闇 最後に人が生きる意味と希望が明示され…

燃える息

『燃える息』/パリュスあや子 誰もが陥る依存を描いた短編集 無心のうちに体が動き やり始めると止められない 陶酔と逃避の狭間の中で 幻想に心が満たされ深みに嵌る 痛々しくも他人事とは笑えない現実を見る Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 著者紹介 pow…

灼熱

『灼熱』/葉真中顕 夢を抱えブラジルに渡った移民たち 遠い地の祖国の戦争が移民たちをも翻弄する 有りもしないものを信じ 意に反する者を排除する 隠しきれない人間の本質が赤裸々に描かれる 残念ながらこれが現実なのかもしれない Amazonで読む楽天で読む…

カミサマはそういない

『カミサマはそういない』/深緑野分 異世界で起きる不思議な物語の短編集 亡霊の遊園地、地底に住む人々、 陸地を喪失した世界・・・ 異世界では思いも寄らない事象が起きるも その根底に存在する人の心情が物語を彩る Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 pow…

ガラスの海を渡る舟

『ガラスの海を渡る舟』/寺地はるな すれ違う家族の中で不仲となった兄妹 祖父のガラス工房を二人が引き継ぐ 仕事を通して人を知り 自らの心を見つめ直す 無くしたものを取り戻すには ただ受け入れるだけでいい そんな簡単なことが難しいのだなと思う Amazo…

旅のない

『旅のない』/上田岳弘 特異な今の時代を特異な視点で描いた短編集 哲学的であるようで哲学ではない 適当であるようで適当ではない 何かあるはずなのに良く分からない 『村上春樹の二番煎じ的な芸風』 なるほど、作中のこの一文がしっくりきた Amazonで読む…

アフター・サイレンス

『アフター・サイレンス』/本多孝好 事件被害者の心のケアをする臨床心理士の女 対象に深く感情移入してしまう性格 自らが加害者家族である心の葛藤 犯罪という狂気が人の心を翻弄する 職業人としてはたぶん失格なのだけど 人間の素が漏れ出す描写にリアリ…

みとりねこ

『みとりねこ』/有川ひろ 猫と暮らす人々を描いた短編集 自由の象徴のように生きる猫たち 一見、ふてぶてしく気ままに生きているようで しっかりと飼い主との絆を掴んで離さない 人の欲目で描かれた物語かもしれない でもそうであって欲しいと願わずにはい…

ばにらさま

『ばにらさま』/山本文緒 きっと人生のどこかでふと思い出してしまう そんなエピソードを綴った短編集 人の人生には完璧はなくて いつもみんなは何かを抱えていて それは面倒で重くて辛いのに 生きることをやめられない でも、最後の最後に笑える時が来ると…

桎梏の雪

『桎梏の雪』/仲村燈 江戸の将棋家に生きる棋士たち 頂点に立つ名人の座をかけて競い合う それぞれの家に継承される棋風 家の隆盛をかけたつばぜり合い 本質を逸脱した世界の末路が 哀愁を纏い痛々しく描かれる Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 著者紹介 p…

川のほとりで羽化するぼくら

『川のほとりで羽化するぼくら』/彩瀬まる 川を異なる世界の境界に見立てた短編集 目の前の景色は本物だろうか? 人はふと疑問を持ち川を超えてみる そこに広がる思いもよらない世界 人生の転換点に踏み込む瞬間 誰にも訪れるその刹那の心の揺動が描かれて…

オーラの発表会

『オーラの発表会』/綿谷りさ 独特な視点と思考を持つ女の子 人が嫌いではないのに人が寄り付かない 一人で平気と強がっていても 気付かぬうちに心に傷を抱えるいじましさ 小憎らしいのに愛おしい 項をめくりながらニヤける流れが止まらない Amazonで読む楽…

とにもかくにもごはん

『とにもかくにもごはん』/小野寺史宣 夫の死をきっかけに始めた子ども食堂 それぞれの事情で参加するボランティアたち それぞれの事情で食堂に来る子供たち そんなワケあり環境が人の心を癒す場となる ほっこり心安らかな時間を過ごせました Amazonで読む…

ふたつのしるし

『ふたつのしるし』/宮下奈都 社会性のない男の子 社会の息苦しさに喘ぐ女の子 異物を排除しようとする社会の中で 二人はひっそりと生きてゆく とても静かな場所でゆっくり拍動する 心音を聞いていたような気がします Amazonで読む楽天で読む amzn_assoc_ad…

象の皮膚

『象の皮膚』/佐藤厚志 子供の頃からアトピーに悩まされてきた女の子 人の目を避けることは生きるための手段だった 逞しく成長し社会の理不尽に立ち向かうも 長くねじ曲げられた心と傷跡に潜む 狂気のようなものがこんこんと漏れ出していた Amazonで読む楽…

にぎやかな落日

『にぎやかな落日』/朝倉かすみ 人生の最後を生きるおばあちゃん 老いてもその人間性は健在だった 褒められると嬉しくなり 好き嫌いで人を区別し サラリと理不尽をやり過ごす 描写が現実すぎて いつの間にかそこに母の姿を見ていた Amazonで読む楽天で読む …

月まで三キロ

『月まで三キロ』/伊与原新 自然の謎を解き明かそうとする科学 全ての根源である科学が人の心を動かす必然 科学に魅せられた人々がその魅力を嬉々として語る姿 その壮大な仕組みに人生を見た人々の姿 物語は科学を通して人の心を証明しようとする 未知を知…