我が手の太陽
この物語の主人公は職人。勤める会社のエースを自他ともに認められる溶接の熟練工だ。プラントなどの現場に出向き、普段、人が目にすることがないような巨大な鋼管を繋ぎ合わせる。 手元で弾ける灼熱の光、高熱下で溶けオレンジ色に光る鋼の池。溶接による接合が最強だからこそ求められる職人。しかし、溶けた金属を吸い込む職業病や少し心の乱れが影響を及ぼす不良率。一線に留まり続けるには強靭な胆力が要る。
主人公は唐突にミスを指摘される。そんなはずはない。しかし、検査の結果が全てであることは理解していた。何故だ?自分はどうしたのだろうか?揺らいでいく自信。自分に対する疑心暗鬼の中で、自分の腕を証明しようとした主人公は安全義務違反を犯し謹慎処分となる。
職業病に犯された高齢の先輩、若手を育てたいという会社の意向。長年、一線で働いてきた主人公の胸に去来する職人としての矜持と年齢という現実。自分はまだ出来る。その思いが主人公を突き動かす。
歩んできた人生に自信と誇りを持つからこそ見えてしまう暗くて深い穴。人間という生き物の心の脆さとそこに立ち上がる人間味が鮮明に描写される。 第169回芥川賞候補作
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