ぶっくま

あさのが読んだ本の備忘録

2020-01-01から1年間の記事一覧

永遠の0

『永遠の0』/百田尚樹 生きて帰ることを信じていた一人の零戦パイロットの物語 戦争という惨禍はその信念に容赦なく襲いかかる 語られるエピソードが心を揺さぶる 戦争を読む意味は史実に対する白黒の色つけではなく 純粋に学ぶことなのだと思う Amazonで…

ワカタケル

『ワカタケル』/池澤夏樹 第21代雄略天皇(ワカタケル)の半生を描いた大河小説 過度な脚色はなく記録に基ずいた史実を淡々とたどる しかし神話の引用や獣が神の遣いになるなどの場面があり 目に見えぬ何かに心を割いただろう当時の様子が伺えるのは興味…

しき

『しき』/町屋良平 高校生たちのありふれた日常を大人目線で描写した物語 描かれる情景は細筋の一本がピクリと動く様子をも逃さぬ鋭さ 一致した共感は数知れない青春への郷愁をもたらす その追憶の時間はリアルすぎて笑ってしまうほど 文体のリズムが心と同…

よその島

『よその島』/井上荒野 島に移住した老夫婦とその友人の奇妙な物語 何かかみ合わないまま物語は進み やがて秘密が明らかになってゆく なんとも言えない寂寥感が心の隙間を スッと通り抜けていった気がしました Amazonで読む楽天で読む 書籍紹介 著者紹介 po…

きらきらひかる

『きらきらひかる』/江國香織 結婚した同性愛の男と心を病む女の揺れる心情を描いた物語 全編に散りばめられた愛すべき言葉たち お互いを気使う二人の揺れる心の鼓動 タイトル通り全てがきらきらひかる 心の奥底に無数の小さな光がポッと灯る そんな気持ち…

十字架のカルテ

『十字架のカルテ』/知念実希人 高校の親友を殺された精神科女医が精神疾患を患った犯人と向き合う物語 犯罪者の嘘と精神障害に向き合う精神科医 人の観察しか判断根拠のない精神鑑定 責任能力を判定する困難が腑に落ちました エピソード毎に完結するので迷…

一人称単数

『一人称単数』/村上春樹 人生の記憶に爪痕を残すエピソードを描いた短編集 本編の中で頻繁に音楽が登場した影響からか 音符を読むように文字を拾い物語の世界を堪能しました 他では味わえない読書の楽しみ方 深く意味を考えないのはいつも通り Amazonで読…

法廷遊戯

『法廷遊戯』/五十嵐律人 父の冤罪を晴らすために仕組まれた法廷闘争の物語 大学の模擬裁判から本法廷へと続く緊迫の裁判手続きと審理 法的根拠の中で語られてゆく真理へとつながる証言のピースたち 物語は緻密に計算された細道を辿り結末へと導かれる 法律…

『類』/朝井まかて 森鴎外の末子、森類の人生を描いた大河小説 名士の子供に生まれたが故の幸、不幸がせめぎ合う 何者かになることを夢見ながら 自らの才を引き出せない自分を冷めた目で見つめている 精緻な情景描写の中で淡々と物語が語られてゆく Amazon…

隣人X

『隣人X』/パリュスあや子 惑星移民と地球人の日常を描いた物語 平場の中にひっそりと紛れ込む異質 衝撃的な出来事をこの物語はあくまで穏やかに描いていく 危機や不条理の裏で淡々と続いてゆく平凡な日常 そこには大切なものを守り生きている人がいる 確か…

推し、燃ゆ

『推し、燃ゆ』/宇佐見りん 自身の全てを捧げてアイドルを推す少女の物語 それが世界の全てであるかのように推しのアイドルに心酔する 誰もが通る道であるけれど、より深みに沈み込んだ姿は 物悲しくて痛々しくて切ない 壊れてゆく感情と日常、推しの炎上 …

たおやかに輪をえがいて

『たおやかに輪をえがいて』/窪美澄 夫の風俗通いを知った妻が自分という人間を見つめ直す物語 全てから距離を置き自分を取り戻してゆく姿に共感を覚えました 自分が大切なものは何か、守りたいものは何か そんなことを自分に問いかけながら生きていく そん…

いけない

『いけない』/道尾秀介 三つの殺人事件を舞台にした謎と秘密を描いた輪作ミステリー 巧みに隠された謎、緊迫の犯行シーン 各章末に秘密が隠された写真が提示される 読了後になるほどと思いつつ 何か見落としがあるのではと再読をそそられる一冊でした Amazo…

スキマワラシ

『スキマワラシ』/恩田陸 事故で死んだ両親と兄弟を繋ぐ不思議な現象の物語 現実では交わることのない親子を繋ぐ不思議な現象 物語は旅をするように謎の現象の核心に迫ってゆく どんな状況になっても親が失うことのない 子供への愛情が描かれていたのだと思…

博士の愛した数式

『博士の愛した数式』/小川洋子 八十分しか記憶が持たない数学博士の家政婦として働く母子の物語 質素な離れの家の中に広がる壮大な数字の世界 神が創造したその世界は清廉で美しく純粋な空間であり 人間という存在を映す鏡でもあると知った 震えるほどに愛…

うたかた姫

『うたかた姫』/原宏一 脚本で描いた天才歌姫のシンデレラストーリーが現実になってゆく 登場人物の動機のところにはハテナが多かったが 物語はテンポよく展開しエンディングまで駆け抜ける 読了後、水玉模様が気になって仕方がないのです Amazonで読む楽天…

輪舞曲

『輪舞曲』/朝井まかて 大正時代に実在した新劇女優の半生を描いた物語 芸術、芸能界隈の混沌、女優という職業の黎明期 その苦難の時代を力強く生きてゆく女 そこには女、そして母親としての過去を持つ主人公の揺るぎない覚悟が見えました 情景と色彩描写の…

ブラフマンの埋葬

『ブラフマンの埋葬』/小川洋子 怪我をした森の動物を保護した芸術家の宿泊施設の管理人の物語 森の野生動物と一緒に暮らす青年 出会った瞬間に二人は惹かれ合い、時を重ねるごとに心を通わせてゆく 独特の言い回しで淡々と状況を並べていくような文体 行間…

背中の蜘蛛

『背中の蜘蛛』/誉田哲也 サイバー空間を監視する警視庁の秘匿部署が行う違法捜査を描いた物語 デジタル社会で様変わりする捜査手法 警察によるサイバー空間の監視が描かれています セキュリティの隙を突く新手の犯罪に追いつけない社会 法的根拠のない捜査…

木曜日にはココアを

『木曜日にはココアを』/青山美智子 桜並木の見えるカフェから繋がる人々を描いた短編輪作集 ドラマチックではないけれどホッと心が温まるエピソードたち サラサラとあっという間に物語を読み終えていました スキマ時間を埋める読書にぴったりの本だと思い…

コンセント

『コンセント』/田口ランディ 兄の不可解な死の真相を追いかけるうちに世界の真実と繋がる能力を開花させた女の物語 普通の人間が感知できない人智を超えた世界 人間の意識はどこにあるのか?死後それはどこに行くのか? 世界の本質とは何か?どうすればそ…

かか

『かか』/宇佐見りん 混沌の言語海から釣り上げられる奇妙で可愛いい言葉たち 母に対する抑えきれない愛憎を軸に描かれた娘の混乱と葛藤 行き先の不確かさと読了後に得られる符号 この物語は女という生き物の象徴であり 女という生き物の解剖書なのだと思い…

アウア・エイジ

『アウア・エイジ』/岡本学 映画館のバイトで知り合った女の子の過去を追いかける物語 昔に好意を寄せた人の過去を辿ってゆく物語 確かに昔、好きだった人の今はどんなだろうと思うことはある でもなぜ?のところが符合しなくて困った ところどころに埋まっ…

とんび

『とんび』/重松清 広島に住む頑固親父と家族の人生を描いた人情物語 不器用に生きる頑固親父は子育ても不器用 そんな親父の背中を見ながらまっすぐに成長する子供 素直になれないお親父の愚行にツッコミを入れながら 人を思いやる心に涙する 親子人情物語…

純喫茶パオーン

『純喫茶パオーン』/椰月美智子 老夫婦が経営する純喫茶に入り浸る孫と仲間たちが遭遇する小謎の物語 コミカルでクセのある登場人物 プチミステリーと軽快に進んでいくストーリー 迷わずサラサラと読める一冊でした 読了後、児童文学だったのかなとふと思い…

首里の馬

『首里の馬』/高山羽根子 沖縄に住む女の子が出会いから学び生きてゆく姿を描いた物語 人との関わり合いが苦手な女の子が 人生で出会うざまな人や出来事に向き合う そこから何かを感じ意思を持ち強くなっていく姿は 全ての瞬間に彼女の純粋な心が映し出され…

愛の色いろ

『愛の色いろ』/奥田亜希子 複数愛者が住むシェアハウスの住人たちの瓦解の物語 複数愛者というテーマを掲げて始まった物語は その核心には触れずに想定外の方向に展開する 何かにのめり込む人の姿、夢から覚めた時の寄る辺なさ、仲間が瓦解してゆく儚さ そ…

雪月花黙示録

『雪月花黙示録』/恩田陸 主義の異なる分離した世界のせめぎ合いを描いた物語 真逆の方向性を進む分離した二つの世界 過去から続く世界の混迷の謎に向き合う若者たち 描かれる舞台は既知に近いが独創的な空想空間 閉塞感のある混沌の世界を楽しむ物語なのだ…

ジゼルの叫び

『ジゼルの叫び』/雛倉さりえ バレエの世界に生きる少女たちの心の葛藤を描いた物語 人間の体の動作に歪を強い完成を求めるバレエの世界 そこに生きる未完成な少女たちの心と体の矛盾 静謐で冷たい水の中を覗いているような文体の中 水をかき分け躍り出る心…

四畳半タイムマシンブルース

『四畳半タイムマシンブルース』/森見登美彦 ボロアパートに住む大学生たちが未来からやってきたタイムマシンで右往左往する物語 回顧的空間に住む個性的な登場人物たち テンポよく進むストーリー展開 どこかとんでもないところに飛ばされることを予感させ…